この戯曲に登場する人物はすべて実在し、この戯曲の扱う事件はなにによらず史実である。
(中略)
この事件を経てこそはじめて一茶は一茶になったのだと作者は確信する。―井上ひさし
江戸の三大俳諧師の一人と称される夏目成美こと、蔵前札差井筒屋八郎右衛門の寮から
四百八十両の大金が盗まれた。
容疑者は食い詰め者の俳諧師、小林一茶。
蔵前札差会所見廻同心見習いの五十嵐俊介は、お吟味芝居を仕立て、自身が一茶を演じながら、
彼をよく知る元鳥越町の住人たちの証言をつなぎ合わせていく。
そこに浮かび上がってきたのは、俳諧を究めようともがき、一人の女性を命懸けで奪い合った一茶と
宿敵・竹里の壮絶な生き様と事件の真相だった...。
江戸を代表する俳人として知られる小林一茶。
彼は信州柏原の農家に生まれ、15歳の春に江戸へ奉公に出された。
奉公先を転々とする中で俳句と出会い、溝口素丸や二六庵竹阿に師事し、
20歳を過ぎたころから俳諧師を目指すようになる。
彼は風流を愛でる当時の俳壇の中、日常や小さな生命への慈愛に満ちた二万句もの俳句を残し、
65歳でその生涯を終えた。
平成の世にまで名を残した、小林一茶とは一体どんな人物だったのか
作者が、彼を書くにあたって、年代記ではなく、時間を事件のあった七日間に限定をしたのは
"この事件"こそが彼の生き方を大きく変えたと確信したからである。
その舞台となる事件を彩るのが劇中劇。迷句珍句の言葉遊びにドンデン返し。
一茶の半生をたどりながら、観客もろとも巻き込む推理劇の要素を持ち合わせた井上ひさしの秀逸評伝劇。
こまつ座初登場、映画・ドラマ・舞台と幅広く活躍中の今、もっとも旬な俳優和田正人を一茶、
ミュージカルだけでなくストレートプレイでも高い評価を得ている石井一孝をライバルの竹里に迎え、
多彩なキャストでお送りいたします新生『小林一茶』。
俊才・鵜山仁の新演出で、今幕があく。
2015年4月6日(月)〜4月29日(水・祝)
新宿東口・紀伊國屋ホール