こまつ座79回公演『兄おとうと』 (井上ひさし作・鵜山仁演出) を前に、井上ひさしが吉野作造の故郷古川市で語る。吉野作造記念館での「井上ひさしの吉野講座」!
吉野作造について、「(吉野氏にとっては)政治の「観念」よりは、政治の現実がその関心であった。一言何かいっても、それが現実政治に反響しなければならないという責任を感じていたのであった」という長谷川如是閑の言葉を紹介し、
井上:これは吉野博士の本質をついた言葉だと思います。神童で、秀才で、偉くなるつもりなら学者の道でいくらでも偉くなれたのだと思いますが、吉野博士はそれではダメだと考えていた。現実の政治に影響を与え、あるいは現実の政治から取り出した何かを説いて国民に還元する。吉野作造は、政治学という学問と現実の政治が渡り合っているところに自分の生き甲斐があるのだと考えた。とても希有な人物だと思います。
また、講座の後半では、「吉野作造ファンの一人として、吉野博士が生きていたとしたら今の世の中をどう見るかと考えてみると、」として、
井上:吉野作造は、“国と国の間には国際法がある。国際社会ではその国際法を重んじなければならない”と考えた人です。その立場から今の状況を見ると、――たとえば「日本は核武装をすべきか?」という新聞のアンケートに対して、じつに40%が「持つべきだ」と答えている。これは情緒的な反応です。吉野作造ならば「危険だ!」と云うでしょう。国際政治のリアリズムから考えれば、日本が核を持つということは日本が世界中を敵にまわすというに等しい、おそろしい愚行です。吉野博士が生きていたら、きっと命懸けで警告を発すると思います。
さらに東京裁判、サンフランシスコ条約との関わりから、靖国問題や、イラク戦争などの今日的な問題にも言及し、講座は2時間半におよびました。
会場には熱心な聴衆が250名以上も集まって、記念館の研修室が満場の熱気につつまれました。